# 早期発見を「成果」にしてはいけない > U.E.N.O.Planに問われる、国の検証責任 **Published by:** [Small Medicine](https://smaller.jp/) **Published on:** 2026-07-24 **Categories:** small-medicine, ebm **URL:** https://smaller.jp/early-detection-is-not-an-outcome ## Content 厚生労働省は、「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表しました。 計画では、栄養・食生活、がん・循環器病、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケアの6領域を重点分野とし、健康情報の提供だけでなく、行政、保険者、企業による受診勧奨やインセンティブを強化するとしています。 がん検診受診率、精密検査受診率、特定健診受診率を引き上げるほか、簡易検査を用いた歯科健診、血液バイオマーカーを利用した認知症の早期診断、発症早期からのリハビリテーションなどが盛り込まれました。 情報提供だけでは健康行動が変わらないという問題に踏み込み、個人任せにせず、制度や環境から健康を支えようとする方向性は重要です。 しかし、この計画には大きな空白があります。 それは、早く発見し、受診する人を増やした結果、本当に国民の健康が改善したのかを、誰が、どのように確かめるのかという問題です。 計画に描かれた、短絡的すぎる因果関係 U.E.N.O.Planの見取り図では、おおむね次のような流れが描かれています。 情報提供 →健診・検診 →早期発見 →受診勧奨 →適切な治療 →健康寿命の延伸・死亡率の低下 一見すると自然な流れです。 しかし、政策として最も重要なのは、「早期発見」と「健康寿命の延伸」の間にあります。 検査で異常を見つけても、有効な治療につながらなければ健康は改善しません。治療効果が小さければ、検査や治療の負担の方が大きくなる可能性もあります。ゆっくり進行し、生涯に症状を起こさなかった病変まで発見すれば、診断と治療だけが増えることもあります。 計画の図では、受診勧奨から健康寿命の延伸までが一本の矢印で結ばれていますが、その間にあるはずの治療効果、過剰診断、有害事象、生活の質、医療資源の消費については、十分に描かれていません。 ここに、予防医療政策の本質的な危うさがあります。 早く見つけても、長く生きられるとは限らない 早期発見には、直感的な説得力があります。 病気は早く見つけた方がよい。早く治療すれば重症化を防げる。したがって、検査を受ける人を増やせば死亡が減る――。 しかし、これはあくまで仮説です。 検査によって診断日が前倒しされれば、実際の死亡時期が変わらなくても、「診断後の生存期間」は長く見えます。また、検診では進行の遅い病変が見つかりやすく、症状を起こさない病変まで診断されれば、生存率は見かけ上改善します。 米国国立がん研究所も、早期がんの発見数や診断後生存率の改善だけでは、検診が命を救った証拠にはならないと説明しています。検診の有効性は、基本的に検診を受けた集団と受けなかった集団の死亡率などを比較して判断する必要があります。(がん情報センター) つまり、 早期発見は、政策の成果ではない。 健康を改善するまでの途中経過にすぎない。 ということです。 20万人を調べても、死亡は減らなかった 早期発見と健康改善が同じではないことを示す代表例が、卵巣がん検診です。 英国で行われたUKCTOCS試験では、閉経後女性約20万人を、血液検査を中心とした検診、超音波検診、検診なしの3群に無作為に割り付け、長期間追跡しました。 検診によって、早い段階で診断されるがんは増え、進行がんの割合にも変化がみられました。しかし、長期追跡の結果、卵巣がん・卵管がんによる死亡は有意には減少しませんでした。研究者らは、一般人口への検診導入を支持しないと結論づけています。(ランセット) これは重要な教訓です。 早期がんが増えたことも、進行がんが減ったように見えたことも、最終的な死亡減少を保証しませんでした。 もし国が「検診受診率」「発見数」「早期がん割合」だけを成果としていたなら、この検診は成功した政策に見えたかもしれません。 しかし、国民にとって重要なのは、発見数ではありません。 死亡を減らしたか、苦痛や障害を減らしたか、生活の質を改善したかです。 U.E.N.O.Planでは、実施しやすい数字が前面に出ている U.E.N.O.Planでは、がん検診受診率60%、精密検査受診率90%など、明確な数値目標が示されています。 歯科保健では、希望する国民が毎年歯科健診を受けられる体制を整備し、簡易検査を保険者や自治体に普及させるとしています。認知症では、血液バイオマーカーなどを利用してMCIや認知症を早期に診断し、治療や支援につなげるモデルが計画されています。 これらは、行政にとって測りやすい指標です。 何人に通知したか。 何人が検査を受けたか。 何人に異常が見つかったか。 何人を医療機関につないだか。 短期間で集計でき、事業の進捗も説明しやすい数字です。 一方、死亡、要介護化、生活機能、歯の喪失、生活の質、家族の介護負担といった結果は、評価に時間がかかります。複数の制度や医療機関をまたいだデータ連結も必要です。政策の効果がなかったことや、害が上回ったことが明らかになる可能性もあります。 そのため、行政は無意識のうちに、 測定しやすい「受診率」を成果とし、 測定しにくい「健康状態の改善」を期待として扱う 構造に陥りやすくなります。 U.E.N.O.Planの概要でも、健康寿命の延伸や死亡率の減少は「期待される効果」として示される一方、具体的な数値目標は検診・健診の受診率を中心に設定されています。 しかし、受診率を上げることと、健康を改善することは同じではありません。 認知症は「治療があるから早く探すべき」なのか U.E.N.O.Planの認知症対策では、血液バイオマーカーなどを利用してMCIや認知症を早期に診断し、抗アミロイドβ抗体薬、多因子介入、社会参加、診断後支援につなぐ構想が示されています。 診断後の支援まで一体的に整備する方向は評価できます。 また、レカネマブの臨床試験では、早期アルツハイマー病患者における18か月後のCDR-SB悪化が、プラセボ群の1.66点に対し治療群では1.21点となり、認知・生活機能の低下を一定程度遅らせました。(New England Journal of Medicine) しかし、この結果から直ちに、無症状の高齢者を広く検査すべきだとは言えません。 この試験の対象は、アミロイド病理が確認された早期アルツハイマー病患者です。一般の無症状高齢者を検査する政策の有効性を調べた研究ではありません。 米国で行われたIU CHOICE試験では、プライマリ・ケアを受診した高齢者4005人を認知機能スクリーニング群と非スクリーニング群に割り付けましたが、12か月後の生活の質、医療利用、将来の医療に関する計画などに明確な差は認められませんでした。(PubMed) 米国予防医療専門委員会も、症状のない地域在住高齢者を一律にスクリーニングすることについて、利益と害を判断できる証拠が不足しているとしています。一方、本人や家族の訴え、診察上の徴候がある場合に評価することは、集団スクリーニングとは区別されています。(アメリカ予防サービス作業部会) 治療選択肢が登場したことは重要です。 しかし、 治療を受けるべき患者を早期に診断することと、 症状のない人を広く検査することは別の政策である という区別が必要です。 毎年の歯科健診も、検証なしに全国化してよいのか 歯科保健では、簡易検査ツールを利用し、希望する国民が毎年歯科健診を受けられる仕組みが提案されています。 歯科受診機会が乏しい就労世代や長期未受診者に接点をつくることには意義があります。パイロット事業から始めることも妥当です。 ただし、「毎年」という頻度が全員に必要かどうかは、別に検証しなければなりません。 英国のINTERVAL試験では、定期的に歯科を受診している成人を、6か月ごと、個人のリスクに応じた間隔、24か月ごとの健診に割り付け、4年間追跡しました。6か月ごとの健診とリスクに応じた健診の間で、口腔健康に明確な差は認められませんでした。低リスク者では、24か月間隔も有力な選択肢になり得ることが示されました。(PubMed) もちろん、英国の定期受診者を対象とした結果を、日本の長期未受診者にそのまま当てはめることはできません。 だからこそ、国のパイロット事業では、簡易検査を受けた人数や歯科受診率だけでなく、 歯周病の進行 歯の喪失 口腔に関する生活の質 不要な受診や処置 偽陽性と偽陰性 年齢やリスクに応じた最適な受診間隔 かかった費用と得られた健康利益 を調べる必要があります。 受診率が上がったというだけで制度化すれば、パイロット事業は普及のための実績づくりになり、政策の是非を判断する試験ではなくなってしまいます。 「早ければよい」はリハビリテーションでも成立しない リハビリテーションについても、U.E.N.O.Planは入院後の早期開始や休日の提供を推進しています。計画には、診療報酬改定の効果を今後検証するとの記載があり、この点は重要です。 ただし、早期介入は内容や強度を問わず有効というわけではありません。 脳卒中患者を対象としたAVERT試験では、発症24時間以内から、通常診療より早く多く離床させる介入を行いました。しかし、3か月後に良好な機能予後を得た割合は、早期高用量介入群で46%、通常診療群で50%でした。早期高用量介入群の方が良好な転帰が少ない結果でした。(PubMed) この試験は、早期リハビリテーションそのものを否定したものではありません。 重要なのは、開始時期、1回の時間、頻度、総量、患者の重症度を区別し、最終的な生活機能で評価することです。 「入院3日以内に開始した割合」だけを高めても、患者の自立度や在宅復帰が改善するとは限りません。 国にしかできない仕事がある 個々の医療機関は、目の前の患者に検査や治療を提供できます。 しかし、全国的な予防政策によって、 死亡や重症化が減ったか 生活機能や生活の質が改善したか 過剰診断や不要な治療が増えなかったか 健康格差が縮小したか 費用に見合う効果があったか を調べることは、個々の医療機関には困難です。 住民健診、レセプト、がん登録、介護保険、人口動態統計などを長期間連結し、政策を実施した地域と実施していない地域を比較できるのは、主として国や自治体です。 つまり、国の役割は、検査を勧めることだけではありません。 国にしかできない最も重要な仕事は、 国が始めた政策が本当に健康を改善したのかを確かめることである。 この責任が果たされなければ、早期発見は自己目的化します。 検査を増やし、発見数を増やし、受診者を増やすほど、政策が成功したように見えるからです。 全国展開の前に、成功と失敗を定義する U.E.N.O.Planにも、歯科保健のパイロット事業、リハビリテーションの効果検証、AI予防医療モデルの中間評価など、検証を意識した記載はあります。 しかし、政策全体として、次の点は明確ではありません。 第一に、最終的に何を改善すれば成功なのか。 第二に、通常の施策や未実施地域と何を比較するのか。 第三に、どのような害を測定するのか。 第四に、効果が小さい、または害が大きい場合に、政策を縮小・中止するのか。 全国展開する前に、これらを決めておく必要があります。 がん検診であれば、受診率だけでなく、進行がんとがん死亡、偽陽性、過剰診断を測る。歯科健診であれば、受診率ではなく歯の喪失や生活の質を測る。認知症であれば、診断数ではなく本人の機能、生活の質、家族負担、有害事象を測る。リハビリテーションであれば、実施単位数ではなく自立度、在宅復帰、再入院を測る。 そして、結果が得られなければ、いったん始めた政策であっても修正または中止する必要があります。 早期発見は、成果ではなく仮説である U.E.N.O.Planが提起した問題は重要です。 予防医療を個人の自己責任に委ねず、受診機会の格差を縮小し、必要な人を医療や支援につなげることは、国が取り組むべき課題です。 しかし、予防医療を「早く見つける競争」にしてはいけません。 検査を受けた人が増えた。 病気が多く見つかった。 早期に診断された人が増えた。 これらは、国民の健康が改善したことを意味しません。 予防医療において、早期発見は成果ではなく仮説です。その仮説が正しかったかどうかは、死亡、機能、生活の質、害、費用を長期的に調べて初めて分かります。 U.E.N.O.Planに必要なのは、さらに強い受診勧奨だけではありません。 政策を実施する力と同じくらい、 効果を確かめ、間違っていれば改める力が必要です。 「攻めの予防医療」が本当に国民の健康を守る政策になるかどうかは、早期発見の数ではなく、その先の結果を国が測れるかにかかっています。 参考文献 厚生労働省.U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~.2026. 厚生労働省.U.E.N.O.Plan参考資料・見取り図.2026. 厚生労働省.U.E.N.O.Plan概要.2026. National Cancer Institute. What Cancer Screening Statistics Really Tell Us. (がん情報センター) National Cancer Institute. National Lung Screening Trial: Questions and Answers. (がん情報センター) Menon U, et al. Ovarian cancer population screening and mortality after long-term follow-up in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening: a randomised controlled trial. Lancet. 2021;397:2182-2193. (PubMed) Fowler NR, et al. Risks and Benefits of Screening for Dementia in Primary Care: The IU CHOICE Trial. J Am Geriatr Soc. 2020;68:535-543. (PubMed) US Preventive Services Task Force. Screening for Cognitive Impairment in Older Adults. JAMA. 2020;323:757-763. (アメリカ予防サービス作業部会) van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21. (PubMed) Clarkson JE, et al. Risk-based, 6-monthly and 24-monthly dental check-ups for oral health: the INTERVAL trial. Health Technol Assess. 2020;24. (PubMed) AVERT Trial Collaboration Group. Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset. Lancet. 2015;386:46-55. (PubMed) ※この記事はAI共創型コンテンツです。 ■ AI コンテンツ生成:ChatGPT 5.6 ■ bycomet 医師。2007年からブログ/Xで発信を続けています。2015年に「地域医療ジャーナル」を創刊し、2018年にオンラインコミュニティ「地域医療編集室」を設立。2022年からプラットフォーム「小さな医療」を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と言葉を届けています。 ## Publication Information - [Small Medicine](https://smaller.jp/): Publication homepage - [All Posts](https://smaller.jp/): More posts from this publication - [RSS Feed](https://api.paragraph.com/blogs/rss/@smaller): Subscribe to updates - [Twitter](https://twitter.com/bycomet): Follow on Twitter